
博物館を訪れることで得られるリラックス効果や感覚への刺激が、科学的に検証され健康増進に活用される動きが広がっている。国内の100館以上で実施された実証実験では、自律神経の改善などが確認され、「博物館浴」という概念がヘルスケア分野で浸透しつつある。山歩きやサウナのように心身を整える目的で博物館を訪れる社会の醸成を目指し、公開天文台への応用も進んでいる。
「博物館浴」は九州産業大学(福岡市東区)の緒方泉特任教授が提唱した概念であり、博物館が持つ癒やし効果を人々の健康増進や疾病予防に活用する活動を指す。緒方氏は「博物館を健康づくりの場として捉え直すことで、新たな価値を社会に提案したい」と述べている。
緒方氏は令和2年9月から、国内各地の博物館などと連携し、作品鑑賞の前後で血圧や脈拍の変化、鑑賞者の感情の変化を調査。111館、約1800人分の科学的データを集め、効果の検証に取り組んできた。この調査は博物館の可能性を客観的に示す貴重な試みとなっている。
博物館法では美術館や科学館などの施設も「博物館」として位置づけられ、実証実験には九州国立博物館(福岡県)や国立西洋美術館(東京)、甲賀歴史民俗資料館(滋賀県)、奈良県立美術館などが協力した。結果、高血圧の人は血圧が下がり、低血圧の人は上がる「正常値に戻ろうとする効果」が確認されたほか、怒りや抑鬱、疲労などのネガティブな気分が減少。脳が覚醒し判断力や作業効率が高まる評価も得られ、交感神経と副交感神経がバランスよく働いていると推察される。
こうした科学的根拠を背景に、関係者は博物館浴を日常的な健康習慣として定着させようと取り組んでいる。海外では既に医療行為として認知されている事例もあり、国内でも医療機関との連携やプログラム開発が期待されている。